この記事で整理すること

  • 個人の診療所は、届出が一つでは済まない
  • 医療法人でも、院長が代われば管理者変更の届出が残る
  • 保険の遡及指定は、管理者・患者・職員を引き継いでいるかを見る

個人の診療所は、廃止と開設に分かれる

個人開設の診療所で開設者が変わる場合、一つの届出では済みません。医療法9条1項は、診療所を廃止したときは10日以内に届け出るとしています。新しい開設者の側は、立場で条文が変わります。臨床研修等修了医師が開設したときは、開設後10日以内の届出(医療法8条1項)。臨床研修等修了医師でない者が開設しようとするときは、許可になります(医療法7条1項)。条文は「医師でない者」ではありません。臨床研修を修了していない医師も、許可の側です。許可を出すのは都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市長または区長)です。

医療法人が受け皿になる場合も、この許可の側です。承継する医師の医療法人で引き継ぐなら、個人側の廃止届と、法人側の開設許可が要ります。千葉市は、開設者が医療法人なら先に定款変更等の法人手続きが必要だと、順序まで書いています。図面と、譲り受けの内容をまとめた紙を持って保健所に相談します。廃止日と開設日を空けずに並べられるかも、そこで聞きます。

医療法人では、法人の手続きと管理者の届出が並ぶ

医療法人の診療所を引き継ぐなら、開設者は法人のままです。そのため診療所の開設許可や開設届は要りません。ただし、診療所側の届出が無くなるわけではありません。院長が代わるなら管理者の変更です。医療法施行令4条の2第2項は、届け出た管理者の氏名などに変更を生じたときは、10日以内に届け出るとしています。千葉市は、管理者の変更を変更後10日以内の変更届とし、他の医療機関と兼務する場合は変更前(約2週間前)の2か所管理の許可申請としています。片方は事後の届出、片方は事前の申請です。引き継ぎ期間だけ二つの診療所を見るなら、医療法12条2項の許可にあたるかを先に聞きます。

法人側では、役員を社員総会の決議で選びます(医療法46条の5第2項。財団なら評議員会です。同条3項)。理事長は医師または歯科医師である理事のうちから選出しますが、都道府県知事の認可を受けた場合は、医師でも歯科医師でもない理事からも選出できます(同46条の6第1項)。役員に変更があったときは、就任承諾書と履歴書を添えて、遅滞なく都道府県知事に届け出ます(医療法施行令5条の13)。法人は、開設する診療所の管理者を理事に加えなければなりません。管理者の職を退けば、理事の職も失います(同46条の5第6項・7項。二以上の施設を持つ法人には知事の認可による例外あり)。院長交代と理事構成は連動します。

法務局に出す登記は、別の手続きです。医療法43条1項は登記事項の変更などの登記を求め、施行令5条の12は、登記したときに登記事項と年月日を遅滞なく届け出るとしています。ただし登記事項が知事の認可に係るものなら、届け出るのは年月日だけです。定款を変更するには、社員総会の決議が要ります(医療法54条の9第1項)。さらに、厚生労働省令で定める事項を除き、都道府県知事の認可を受けなければ効力を生じません(同条3項)。除かれる事項は、変更後に遅滞なく届け出ます(同条5項)。認可か届出かで日程が変わります。東京都保健医療局の「医療法人運営の手引(令和8年4月版)」は、定款変更認可について、仮申請の提出から認可書の交付まで3か月程度かかると案内しています。取扱いは都道府県ごとに違います。

保険の遡及指定は、管理者・患者・職員を見る

健康保険法65条1項は、保険医療機関の指定は開設者の申請により行うとしています。開設者が変わる継承では、新しい開設者の指定申請と、前の医療機関の廃止届が要ります。指定は6年で効力を失います(68条1項)。病床のない診療所などは、失効日の6か月前から3か月前までの間に別段の申出がなければ、申請があったものとみなされます(68条2項)。指定とは別に、診療に従事する医師の保険医登録も要ります(同法64条・71条1項)。非常勤の医師も同じです。

指定日の扱いは、令和8年6月5日保医発0605第2号にあります。近畿厚生局の案内では、新規開設の指定日は申請した翌月の1日ですが、遡及できる型が三つあります。類型1は開設者死亡等の場合。死亡や病気で、血族その他勤務する保険医等が引き続き開設者となり、職員と診療録等を引き継いで診療を続ける形です。類型2は、至近の距離(同一都道府県内の直線距離で2km以内)への移転と、所在地移転を伴わない開設者のみの変更。移転は開設者に変更がない場合に限られます。開設者のみの変更も三つだけ。個人から血族または勤務している保険医などの個人へ。個人からその人が代表者になる法人へ。法人からその代表者である個人へ。血縁も勤務歴もない医師への承継は、ここに入りません。類型3は、その他の場合。2kmを超える移転、所在地移転と開設者変更を同時に行う場合、病院と診療所の間の変更などです。承継して近くのビルに移る形は、2km以内でも開設者が変わるのでここに入ります。類型3では、原則として遡及指定を希望する日の3か月前までに、予定届出書で事前に届け出ます。申請の期限と必要書類は、厚生局ごとに違います。近畿厚生局では、類型1と類型2は毎月10日までです。

類型2で認められる要件は、人の引継ぎが中心です。管理者は、旧医療機関と同一の医師であること。ただし開設者が個人で管理者を兼ねている場合に、血族その他勤務する保険医等との間で開設者と管理者を同時に変更するときは、この限りではないとされています。

患者の側は二つです。過去に診療した患者は、診療録等を引き継ぎ、問い合わせに新しい医療機関が答えること。いま診療中の患者は、外来も在宅も、有床なら入院も、新しい医療機関で続くこと。ここで数えるのは医師です。診療にあたっていた医師の概ね8割以上と、常勤医師の概ね5割以上が引き続き雇用されること。小数点以下は切り捨てです。ただし、所在地の移転を伴わず開設者のみを変更する場合は別です。8割に代えて、原則として開設者を除く全ての職員が引き続き雇用されることが要件になります。主な診療科が全て引き続き標榜されること、一つの廃止と一つの開設を伴う事例であることも要件です。承継を機に診療科を絞ったり、人を入れ替えたりすると、ここで外れます。

遡及が認められなかった場合も、先に聞いておきます。指定日より前の診療は、保険の扱いになりません。患者は窓口で全額を払い、その日の処方箋を薬局が保険で扱えるかも、あわせて厚生局に確かめます。後から戻るかは、健康保険法87条1項の療養費の話です。保険者がやむを得ないと認めるときに支給することができる。条文はそう書いています。戻る前提で日程を組まず、薬を続けている患者の次回受診を指定日より後に置けるかを見ます。

施設基準も出し直しです。旧医療機関で受理されていたものは、新医療機関でも要件を満たし、期日までに届け出れば遡及指定日から算定できるとされています。24時間の体制が前提の届出は、出し直しが遅れると在宅の患者のほうが先に困ります。引き渡し日を月の途中に置くと、同じ月の診療が二つの医療機関に分かれます。請求の担当者と、先に話しておきます。設備や内装を引き継ぐ場合は、「クリニックの居抜き物件は、何を引き継ぐかを分けて見る」にまとめています。

カルテ・装置・持分は、価格の話とは別に決める

カルテは、建物や設備と一緒に動くものではありません。医師法24条2項は、診療所に勤務する医師のした診療に関する診療録を、その診療所の管理者が5年間保存するとしています。保険診療をしているなら、保険医療機関及び保険医療養担当規則9条も効きます。帳簿や書類は完結の日から3年間、患者の診療録は5年間です。義務を負うのは、医師法では管理者、療担規則では保険医療機関です。継承で両方が入れ替わるとき、前の診療録について誰に義務が残るのかは、保健所と厚生局の両方に聞きます。

エックス線装置は、置いたままでも届出が要ります。届出の記載事項に、エックス線診療に従事する医師等の氏名と経歴が入っているからです(医療法施行規則24条の2第5号)。医師が代われば、届出の事由です。備えたとき、記載事項を変えたとき、備えなくなったとき。それぞれ10日以内です(医療法15条3項、同規則24条・24条の2・29条1項)。どちらが出すのかは、保健所に聞きます。

医療法人を引き継ぐなら、定款に持分の定めがあるかを先に読みます。持分ありの医療法人は、平成18年の医療法改正で新規の設立ができなくなりました。既存の法人は、当分の間存続する経過措置の中にあります。厚生労働省の「『持分なし医療法人』への移行に関する手引書」(令和8年3月改訂)の説明です。同じ手引書は、社員の退社や死亡に伴って持分の払戻を請求されることがあるとしています。持分なしへの移行計画の認定は、厚生労働大臣に申請します。制度の実施期間は、令和11年12月31日までです。評価と課税は税理士に、認定は所管の窓口に聞きます。

保険の指定が下りても、終わりではありません。生活保護法による指定医療機関、自立支援医療や難病の指定、労災保険、予防接種や健診の委託は別の制度です。麻薬施用者・麻薬管理者の免許は、麻薬業務所ごとに取り直します。残った麻薬にも期限があります。麻薬診療施設でなくなったときの届出が15日以内、その麻薬の譲渡が50日以内です(麻薬及び向精神薬取締法36条)。受給者証に医療機関名が入る制度は、患者側が変更を出すまで使えません。誰がいつ案内するかまで決めます。

確認リスト

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作業の進み具合の記録です。完了しても適法性や事業の可否を判定するものではありません。

出典・確認日

  1. e-Gov法令検索:医療法(昭和二十三年法律第二百五号) ↗確認日:2026-10-26
  2. e-Gov法令検索:医療法施行令(昭和二十三年政令第三百二十六号) ↗確認日:2026-10-26
  3. e-Gov法令検索:医療法施行規則(昭和二十三年厚生省令第五十号) ↗確認日:2026-10-26
  4. e-Gov法令検索:医師法(昭和二十三年法律第二百一号) ↗確認日:2026-10-26
  5. e-Gov法令検索:健康保険法(大正十一年法律第七十号) ↗確認日:2026-10-26
  6. e-Gov法令検索:保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和三十二年厚生省令第十五号) ↗確認日:2026-10-26
  7. 近畿厚生局:保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて(令和8年6月5日保医発0605第2号・令和8年7月31日事務連絡) ↗確認日:2026-10-26
  8. 東京都保健医療局:医療法人運営の手引(令和8年4月版) ↗確認日:2026-10-26
  9. 厚生労働省医政局医療経営支援課:「持分なし医療法人」への移行に関する手引書(令和8年3月改訂) ↗確認日:2026-10-26
  10. 千葉市:診療所の許可・届出内容を変更する(した)ときの手続き<法人開設> ↗確認日:2026-10-26
  11. e-Gov法令検索:麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号) ↗確認日:2026-10-26

制度の対象・期限・地域ごとの取扱いは、必ず最新の公式案内をご確認ください。本文は一般的な情報と資料整理の手順であり、個別の法務・税務判断を提供しません。