先に結論
勤務先の給与が止まってから、診療所のお金を家計に回せるようになるまでには、間があきます。保険診療の診療報酬は、診療した月の翌月10日までに請求し、診療した月の翌々月の原則21日までに振り込まれます(医療情報基盤・診療報酬審査支払機構の案内)。開業日に保険医療機関の指定を受けていても、開業した月の診療分が保険から入るのは翌々月です。
それまでに入ってくるのは、窓口で受け取る患者負担分や自費診療の分などです。公費負担医療や子どもの医療費助成を使う患者さんは、窓口での支払いがないか、少なく済みます。その分も、請求してからの入金です。診療所の支出と家計の支出は、別の表に書きます。そのうえで、家計に回せるお金が少ない月が何か月続くかを、開業日の遅れや患者数の伸び方を変えて確かめておきます。
| 月 | 勤務先からの給与 | 診療所に入るお金 | 出ていくお金 |
|---|---|---|---|
| 3月 | 3月分の給与(3月に入るか4月に入るかは、勤務先の締め日と支払日で決まる)。1月から4月に辞めると、その年度の住民税の残りは、最後の給与や退職金から一度に差し引かれるのが原則(地方税法321条の5第2項。給与などが残りの税額より少ないときを除く) | まだない | 開業前の家賃、研修中の職員の給与、家計の支出 |
| 4月(開業した月) | なし(3月分が4月払いなら、その分だけ) | 窓口の患者負担分と自費診療の分 | 家賃、人件費、リース料、借入の返済(始まる時期は契約による)、家計の支出 |
| 5月 | なし | 窓口の患者負担分と自費診療の分。4月分の保険診療を10日までに請求 | 4月と同じ |
| 6月 | なし | 4月分の保険診療の入金(原則21日まで)と、窓口・自費の分 | 4月と同じ |
| 7月以降 | なし | 前々月分の保険診療の入金と、窓口・自費の分 | 4月と同じ |
表は横にスクロールできます
この日程は、仕組みを説明するための仮のものです。振込日は請求先ごとに決まっています。返戻や査定があると、入る額や時期はこの例と変わります。指定日が開業日より後になると、それまでの診療は保険で請求できず、患者さんに全額を払ってもらうことになります。開業日と指定日をそろえられるかは、開設届と指定申請をいつ出すかで変わります。
この記事で整理すること
- 診療所の支出と家計の支出は、別の表に書く
- 最後の給与の振込日と、保険診療の最初の入金日を同じ表に並べる
- 個人開業と医療法人では、家計にお金が回る道が違う
診療所の支出と家計の支出を、別の表に書く
一つの表に全部を書くと、どこが足りないのかが見えにくくなります。診療所の表には、家賃、人件費、リース料、委託料、材料費、診療所のための借入の返済を書きます。家計の表には、住居費、食費、教育費、保険料、住宅ローンなどの個人の返済を書きます。開業資金の積み上げ方は開業費用の見積もり方の記事で扱っているので、この記事では家計の側を中心に見ます。
家計の表には、勤務医のときは給与から差し引かれていたものも書き足します。総務省の説明では、個人住民税の所得割は、前年の1月1日から12月31日までの所得で算定されます。開業した年には、勤務医だった前年の所得にかかる住民税を納めることになります。納め方も、給与から差し引かれる特別徴収から、市町村から届く納税通知書で自分で納める普通徴収に変わることがあります。健康保険と年金は、個人開業か医療法人かで加入先が変わります。勤務先を辞めたあとの健康保険は、国民健康保険、医師国保、任意継続などから選びます。どれにも届出の期限があります(任意継続は資格を失った日から20日以内。健康保険法37条1項)。金額と納期は、市町村や加入先からの通知で確かめます。
最後の給与と、最初の入金を同じ表に並べる
次に、月ごとの表を1枚作り、勤務先からの給与と診療所の入金を同じ行に並べます。給与は、何日締めで何日に払われるかによって、最後に振り込まれる月が変わります。賞与や退職金があるなら、いつ、いくら入るかを、就業規則や勤務先の担当者に確かめます。まだ確かめていない入金は、入るものとして数えずに「未確認」と書いておきます。
保険診療の診療報酬は、診療した月の分をまとめて翌月に請求します。医療情報基盤・診療報酬審査支払機構の案内では、医療機関は診療した月の翌月10日までに電子レセプトを提出します。医療費は、診療した月の翌々月の原則21日までに、医療機関が指定した銀行口座に振り込まれます。令和8年度の支払予定日も、同機構のページに載っています。国民健康保険などの分は、都道府県ごとの国民健康保険団体連合会に請求します。たとえば岩手県国民健康保険団体連合会の令和8年度の日程表では、4月に提出した分の振込日は、オンライン請求で5月20日です。振込日は請求先ごとに違うので、開業する都道府県の日程表を見て、表に書き込みます。
保険診療を始められる日も確かめます。近畿厚生局の案内では、保険医療機関を新たに開設した際の指定日は「申請した翌月の1日」です。開業日と指定日をどう合わせるかは、開業までの工程表の記事で確かめてください。
家計に回せるお金が少ない期間を、仮定を変えて見る
表ができたら、月ごとに「診療所に入るお金から、診療所の支出を引いた額」を出します。個人開業なら、この残りが、その月に家計へ回せるお金の上限です。家計の支出のほうが多い月は、家計の貯えから補う月になります。その月が何か月続き、合わせていくら補うことになるかを見ます。医療法人の場合に家計へ入るお金は、次の節のとおり役員報酬です。
見通しは一つにせず、仮定を変えた案を並べます。たとえば、工事や手続きの遅れで開業日が1か月後ろにずれる案、患者数が想定より遅く増える案、返戻や査定で入金が減る案です。開業日がずれても、物件の賃料や、すでに雇った職員の給与は止まりません。どの仮定で家計を補う期間がいちばん延びるかを見ます。それが分かれば、生活費の備えをいくら別に取っておくかを考えやすくなります。
借入の毎月の返済額は、開業資金シミュレーターの「まず試す」で、借入予定額・返済年数・年利から計算できます。月の生活費とは別の行に出るので、そのまま家計の表に写せます。この計算は元利均等返済の場合です。据置期間がある借入や、ボーナス払いを組み合わせた返済には当てはまりません。返済の条件は、借入先の返済予定表で確かめてください。
個人開業と医療法人で、家計へのお金の道を分けて考える
個人開業では、診療所の収入も支出も、開設者本人のお金の出入りです。診療所の収入から経費と返済を払った残りを、家計に移して使います。同じ口座で払っていると、診療所の運転資金を生活費に使っていたことに、後になって気づくことがあります。診療所の口座と家計の口座を分け、家計に移す日と額を決めておきます。税金の計算や帳簿のつけ方は、税理士に確かめてください。
医療法人では、診療所のお金は法人のものです。理事長であっても、法人の口座から家計へ、決まった手続きなしにお金を移すことはしません。医療法54条は、医療法人は剰余金の配当をしてはならないと定めています。理事長が家計に回すのは、役員報酬として受け取るお金です。報酬の額と決め方、税金の扱いは、法人の手続きと税理士への確認が要ります。
法人の借入でも、家計と無関係とは限りません。日本医師会が2009年に会員の開設者に行った調査では、借入金がある医療法人(新規開業と承継の両方、475件)の90.9%が、借入に個人保証をしていると答えています。17年前の調査なので、いまの割合を示すものではありません。自分の借入に個人保証が付いているかは、借入の契約書で確かめます。個人の診療所を医療法人に移すときの手続きは、継承の手続きの記事にまとめています。
確認リスト
0 / 9 項目を確認済み
出典・確認日
- 医療情報基盤・診療報酬審査支払機構:診療報酬の審査・支払業務の流れ ↗確認日:2026-10-27
- 医療情報基盤・診療報酬審査支払機構:診療報酬等の支払予定日 ↗確認日:2026-10-27
- 岩手県国民健康保険団体連合会:国保診療報酬等請求・支払日程表 ↗確認日:2026-10-27
- 近畿厚生局:保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて ↗確認日:2026-10-27
- 総務省:地方税制度(個人住民税) ↗確認日:2026-10-27
- e-Gov法令検索:医療法(昭和二十三年法律第二百五号) ↗確認日:2026-10-27
- 日本医師会:開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査(2009年9月30日定例記者会見) ↗確認日:2026-10-27
- e-Gov法令検索:健康保険法(大正十一年法律第七十号) ↗確認日:2026-10-27
- e-Gov法令検索:地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号) ↗確認日:2026-10-27
制度の対象・期限・地域ごとの扱いは、必ず最新の公式案内でご確認ください。本文は一般的な情報と、資料を整理する手順です。個別の法律や税金の判断はしていません。